設立

引受けの無効・取消しの制限(51条),発起人等の責任(52条~56条)

引受けの無効・取消し

1.引受けの無効・取消しの制限(51条)

第51条 (引受けの無効又は取消しの制限)
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民法(明治29年法律第89号)第93条第1項ただし書及び第94条第1項の規定は、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、適用しない。
 発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。

第102条(設立手続等の特則)
5 
民法第93条第1項ただし書及び第94条第1項の規定は、設立時募集株式の引受けの申込み及び割当て並びに第61条の契約に係る意思表示については、適用しない。
 設立時募集株式の引受人は、株式会社の成立後又は創立総会若しくは種類創立総会においてその議決権を行使した後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。

会社の設立の過程においては、多数の関係者が関与することから法的安定性が重視され、民法の意思表示に係る規定が制限されています。

以下の図は、心裡留保の例です。
民法93条1項ただし書の規定は適用されないため、引受けは有効となります。

心裡留保

錯誤・詐欺・強迫を理由とする取消しは、会社成立前または議決権行使前であれば可能です。
意思無能力と制限行為能力については、会社法による制限はありません。

株式引き受けの無効取消しの制限
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2.出資された財産等の価額が不足する場合の責任(52条)

2-1.不足額填補責任(52条1項)

第52条 (出資された財産等の価額が不足する場合の責任)
 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う

株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が定款に記載された価額に著しく不足するときは、発起人と設立時取締役は、連帯して不足額を支払う義務を負います。

財産不足額填補責任

2-2.不足額填補責任を免れる場合(52条2項)

第52条
 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人(第28条第1号の財産を給付した者又は同条第2号の財産の譲渡人を除く。第2号において同じ。)及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない。
 第28条第1号又は第2号に掲げる事項について第33条第2項の検査役の調査を経た場合
 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

52条1項の例外です。
次の場合には、1項の義務を負いません。
① 28条1号(現物出資)、2号(財産引受)の定款の定めにつき検査役の調査を受けた場合
② 発起人、設立時取締役が職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

括弧書は、例外の例外です。
現物出資財産の給付者と財産引受の財産の譲渡人は、①②に該当した場合でも1項の義務を免れることはできません。

財産不足額填補責任

2-3.募集設立の場合の責任(103条1項)

第103条(発起人の責任等)
 第57条第1項の募集をした場合における第52条第2項の規定の適用については、同項中「次に」とあるのは、「第1号に」とする。

103条1項は、52条2項については1号しか適用しないと言っています。
募集設立の場合は、52条2項の2号を適用してもらません。
職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しても免責されないということになります。

2-4.52条3項

第52条
 第1項に規定する場合には、第33条第10項第3号に規定する証明をした者(以下この項において「証明者」という。)は、第1項の義務を負う者と連帯して、同項の不足額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

証明者は、1項の義務を負う者と連帯して不足額を支払う義務を負いますが、証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合には免責されます。

2-5.まとめ

財産不足額填補責任

3.出資の履行を仮装した場合の責任等(52条の2)

第52条の2 (出資の履行を仮装した場合の責任等)
 発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。
 第34条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払
 第34条第1項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付(株式会社が当該給付に代えて当該財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)
 前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

3-1.仮装払込責任(52条の2)

払込み・給付を仮装した発起人は、株式会社に対し、払込み・給付を仮装した出資に係る金銭の全額の支払・金銭以外の財産の全部の給付の義務を負います。
また、仮装に関与した発起人又は設立時取締役も、1項の義務を負うことになります。

募集設立においては、設立時募集株式の引受人は、払込みを仮装した払込金額の全額の支払をする義務を負います(102条の2)。

仮装払込みの例として「見せ金」「預け合い」などがあります。

3-1-1.見せ金

① 発起人が第三者から金銭を借り入れます。
② ①の金銭を払込取扱金融機関に払い込みます。
③ 会社の成立後、取締役に就任して会社から払込金を借り入れ、
④ 第三者へ弁済します。

見せ金

3-1-2.預け合い

① 発起人と払込取扱金融機関が通謀のうえ、
② 発起人が払込取扱金融機関から金銭を借り入れ、
③ 払い込みます(帳簿上の処理)。
④ ①の合意により、借入金が弁済されるまでは預金を引き出すことができません。

預け合い
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4.その他の発起人等の責任(53条~56条)

第53条(発起人等の損害賠償責任)
 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

第54条 (発起人等の連帯責任)
発起人、設立時取締役又は設立時監査役が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の発起人、設立時取締役又は設立時監査役も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

第56条(株式会社不成立の場合の責任)
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。

その他の発起人等の責任として、任務懈怠責任(53条1項)、第三者に対する責任(53条2項)、株式会社不成立の場合の責任(56条)があります。

発起人等の責任

責任の免除(55条)

第55条 (責任の免除)
第52条第1項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務、第52条の2第1項の規定により発起人の負う義務、同条第2項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務及び第53条第1項の規定により発起人、設立時取締役又は設立時監査役の負う責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない

55条では、不足額填補責任(52条1項)、仮装払込み責任(52条の2 1項2項)、任務懈怠責任(53条1項)は、総株主の同意がなければ免除することができないと規定されています。

第三者に対する責任(53条2項)は、総株主の同意により免除することができません。

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